タイで創作の未来を描く:絵本作家 前田ゆうきさんが挑むグローバル展開とその軌跡
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音楽活動から絵本作家へ
前田ゆうきさんは、元々音楽活動をしており、創作に対する情熱はその頃から根付いていました。しかし、30歳を迎えた時、自らの人生を見つめ直し、次第に絵本作りにシフトしていくことになります。幼少期から絵を描くことやアイディアをビジュアルで表現することが好きだったことを思い出し、保育園で働いていた経験や旅をして得たインスピレーションが、彼を絵本の世界に導きました。
絵本作家としての活動
30歳を過ぎてから本格的に絵本作家としての活動を始め、6年間にわたってひたすら作品を生み出す日々が続きました。その間、文章を基にアイディアを膨らませ、絵コンテに起こし、年間約6作を完成させるという精力的なペースで制作を進めました。
タイへの移住と活動拠点の移行
前田さんは、日本国内だけでなく世界にも目を向けて活動を展開するために、タイを拠点に選びました。彼はマーケティング的な視点から、タイが日本のアニメやキャラクターに親しみを持つ文化を持っていることや、生活コストの低さを考慮し、タイへの移住を決意しました。
出版までの挑戦
タイに来た当初は、絵本出版のコネクションは一切なく、ゼロからのスタートでした。しかし、前田さんはバンコクの出版社をリストアップし、自らの作品を持って営業活動を行い、20社以上にアプローチをかけました。その結果、タイでの出版が実現し、絵本作家としてのキャリアがさらに広がっていきます。
現在の活動と読者層
現在では、日本人だけでなく、タイの若い世代、特に20代〜30代の女性や学生にも支持されています。また、日本の「ヘタウマ」文化を反映させた独特なキャラクターが、タイの人々にも親しみやすいものとして受け入れられています。
慈善活動
前田さんは、孤児院や学校への絵本の寄付、絵本の読み聞かせといった慈善活動も精力的に行っています。彼にとって創作活動は、人々に希望やメッセージを伝える手段であり、特に子どもたちへの影響を大切にしています。
バンコクで活躍するビジネスパーソンを特集する本企画。
今回は、タイで創作活動を展開されている絵本作家 前田ゆうきさんの回です。日本でも絵本出版賞や新しい創作絵本賞を受賞されている前田さん。その成功の秘訣に迫ります。
Q1. 絵本作家として活動を始められたのはいつ頃からですか。
絵本作家として本格的に活動を始めたのは30歳を過ぎてからです。それまでは音楽活動をしていたんですが、30歳になった時に自分の人生を見直すタイミングがありました。これまでの経験や好きだったことをノートに書き出してみたんです。
その中で、子供の頃から絵を描くことが好きだったことを思い出しました。もっと大きく捉えると、自分のアイディアをビジュアルで表現するということです。保育園で働いていた経験や、旅をして得たインスピレーションも影響して、そこから自然と『絵本を作ってみよう』という発想に至りました。
それから6年間、ひたすら絵本を書き続ける日々が始まりました。
Q2. 6年間、ひたすら絵本を書き続ける日々・・・想像ができないです。絵本作りのプロセスはどのようなものなのでしょうか。
私の場合は、まず文章を書きますね。アイディアをバーっと出して、それを膨らませていって、面白そうなものを絵コンテに起こして絵本にしていきます。だいたい毎週1つはアイディアを出して、年に6作くらい形にしていました。
Q3. タイに活動の拠点を移されたきっかけを教えてください。
タイを活動の拠点にしたのは、マーケティング的な視点からですね。最初に絵本作家として本格的に活動を始めると決めた時から、正直、日本だけで成功するのは難しいと思っていました。絵本業界は狭く、競争も激しい。日本国内だけで勝負するのはリスクが大きいし、限界があると感じていたんです。だから、最初から世界を視野に入れて、どの国で自分の作品が受け入れられるかを考えていました。
その中で、物価が安くて生活コストが低いこと、そして文化的にキャラクターやアニメが受け入れられているタイが候補に上がりました。実際、タイには日本のアニメやキャラクターに親しみを持つ人が多く、マーケティングの面でも、タイは自分の絵本を広めるための良い土壌だと感じました。さらに、ちょうど友人がバンコクに住んでいたこともあり、その縁もあってタイに来ることを決めたんです。
Q4. マーケティング的な視点から活動拠点をタイに移されたのですね。その視点はどこからくるものなのでしょうか。
自分の過去の経験から来ていると思います。もともと私は音楽活動をしていて、当時は『良い作品さえ作れば誰かが見つけてくれて自然と売れる』という幻想を抱いていました。しかし、それではうまくいかなかったんです。
その時に気づいたのが、アーティストとして成功するには、単に良い作品を作るだけではなく、どうやってその作品を多くの人に届けるか、どう広めていくかを考えることが不可欠だということです。幻想は幻想であると気づき、それを現実に落とし込むための具体的な戦略が必要だと学びました。特に、私の音楽プロデューサーがマーケティングに強い方で、”良いものを作るだけでは売れない”という考え方を叩き込まれました。その経験が、自分の活動に対するマーケティング的な視点を養うきっかけとなったんです。
だから、絵本作家としても、最初から日本だけでなく世界に向けて作品を届けるという戦略を立て、タイを拠点に広めていくことを目指しました。
Q5.タイで絵本の出版できるコネクションが元々あったのですか。
タイでの絵本出版に関して、最初はコネクションなんて全くありませんでした。実際、タイに来たのはチャレンジのようなもので、絵本作家としてやっていけるかも未知数でしたね。最初は期間を決めて滞在して、「この期間で結果を出さなければ日本に帰ろう」と決めていました。持っていた資金は30万円ほどで、決めた期間で結果を出せるかどうかは全くわからない状態でした。
そこでやったのは、まずバンコクにある出版社をリストアップして、ひたすら営業活動をすることでした。知り合いにお願いして、私の自己紹介や提案文をタイ語に翻訳してもらい、タイの出版社にメールを送ったり、直接会いに行ったりしました。実際に20社以上の出版社にアプローチしましたね。断られたり、返信が返ってきたり、いろいろな反応でしたが、話を聞いてくれた出版社さんがいたんです。絵本の原稿を見てもらい、そこから話が進んで、1か月弱で出版が決まりました。ひたすら営業活動を続けて、運よく出版のチャンスを掴んだという感じです。
Q6. 現在、多くの書店で前田さんの絵本を目にします。読者層の特徴を教えてください。
現在、読者層も広がっています。最初は日本人の方々が多く応援してくれていました。タイに来たばかりの頃は、日本人コミュニティを中心に活動をしていて、絵本を手に取ってくださる方も日本人が中心でした。日本の皆さんの支えがあったおかげで、ここまで来られたと感じています。
今では、読者層の大部分がタイの方々です。特に若い女性や学生に支持されていて、20代〜30代の女性や高校生、大学生が多く、独特なキャラクターやストーリーが響いているようです。もちろん絵本なので親子で楽しまれている方も多いです。
Q7. 幅広い層に人気の要因は何とお考えですか。
私の絵本の中は「ダブルミーニング」な表現が多く登場します。これが幅広い読者層に受け入れられる要因の一つかと思います。どの年代の方が読んでも楽しめるギミックを取り入れています。子どもにはシンプルで楽しいストーリーとして楽しんでもらいながら、大人には深いメッセージやテーマを感じ取ってもらえるように工夫しています。
より子供にフォーカスした工夫で言うと、「多様性」がある表現になっているか、特に意識しています。もともと、世界に向けて売っていきたいと言うのもあって、どこかの国や地域の特定の固定概念に囚われた表現をしないようにということは、活動初期から気をつけていることです。お子様の価値観の醸成に良い影響があるかもしれません。
一方で、タイで支持されている要因には”日本らしさ”もあると思います。日本の「ヘタウマ」文化をご存知ですか。ヘタウマというのは、見た目が少し不完全でも、その素朴さや親しみやすさが逆に魅力となるという、日本が世界に誇れるユニークな文化です。私の描くキャラクターもヘタウマ的な味があるので、タイの人々にも興味を持っていただき、受け入れられています。タイでも、ドラえもんやクレヨンしんちゃんのように、ゆるいキャラクターに親しみを感じる文化があるので、私の絵柄やキャラクターも自然にタイ人に受け入れられたのかもしれません。
Q8. 前田さんは孤児院や学校への絵本の寄付・絵本の読み聞かせ等慈善活動を精力的にされていますよね。何が前田さんをつき動かすのでしょうか。
タイでの慈善活動は、私にとって非常に大切にしていることです。正直に言うと、タイで創作活動を続けていられるのは、多くの方々の支えがあってこそだと思っています。その恩返しというか、少しでもタイの地域社会に貢献したいという思いが、私を慈善活動に向かわせています。
私自身、タイという異国での生活を通じて「助けられることの大切さ」を深く感じました。自分がここで絵本作家として活動できているのも、たくさんの人のサポートがあってこそです。だからこそ、今度は私が、特に子どもたちに対して何かを返したいという気持ちが強いんです。
絵本はただの物語じゃなくて、夢や希望、時には生きるためのヒントを与えることができると信じています。子どもたちに少しでもそうしたメッセージを届けられたら、私の役割は果たせるんじゃないかと思っています。
Q9. 前田さんにとっての創作活動とは。
創作活動は、私にとって純粋な「快楽」です。創作活動はそうそうなかなか結果が出ない。何かを形にするには多くの時間と労力がかかります。しかし、そのプロセス自体が私にはとても楽しいんです。自分のアイデアの種が、少しずつ形になっていく過程は、一種の快感で、その瞬間瞬間に自分の中で何かが解放されている感覚があります。
特に、完成した作品が誰かの心に響いたり、共感を呼んだ時は、その喜びがさらに大きくなります。結果がすぐに見えないこともある創作活動ですが、失敗も含めて、すべてが新しいインスピレーションに繋がる。創作する行為そのものが私にとっては最大の快楽であり、生きるエネルギーなんです。
Q10. 今後の目標や展望についてお聞かせいただけますか?
今後の目標は、もっと多くの国で私の作品を手に取ってもらうことです。タイを拠点にしながらも、アジア全体、そしてさらに世界へと展開していきたいと思っています。また、新しい絵本の制作も進めていて、次の作品ではさらに多様性をテーマにした内容にする予定です。絵本を通じて、少しでも多くの人々にメッセージを伝えていければと思っています。
Q11. タイで創作活動に挑戦したいと考えている方に向けて、メッセージやアドバイスをお願いします。
強く伝えたいのは「挑戦することを恐れないでください」ということです。タイは日本とは違う文化や生活環境がありますが、そこにこそ新しいインスピレーションやアイディアが眠っています。
また、もう一つ伝えたいのが「対面でのフィードバックを大切にする」ということです。私自身も実感していますが、作品を作るだけではなく、それを実際に人と会って紹介し、フィードバックをもらうことが非常に重要です。特にタイでは、リアルな交流や対面でのやり取りが大きな力を持っています。ネット上だけでの活動に偏らず、直接人に会って、反応を得ることで、新しいアイディアや成長の機会を得られることが多いです。
創作活動というのは、最初から結果が出るわけではありません。むしろ、時間がかかることがほとんどです。でも、結果が見えなくても、そのプロセスを楽しんでください。私自身、日本人がタイで創作活動をしやすくなる土壌をこれからも作っていかなければならないという覚悟を持って活動していきます。
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バンコクで働く方
絵本作家:前田ゆうきさん
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エリア名
バンコク・コンケン
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住所
コンケン
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いつからタイで働いていますか
2022年-
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サービス内容
多様性をテーマにした絵本を制作し、タイを中心に展開しています。前田氏の絵本は、子供にも大人にも楽しめる内容で、メッセージ性のある作品を作ることに力を入れており、幅広い層に販売を広げています。また、慈善活動も行い、創作活動を通じてメッセージを発信し続けています。
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お仕事の依頼先
LINE tengunosato